魅惑のメキシコ (3) 王家のカカオを受け継ぐ伝説の「ソコヌスコ」へ!

 

                       2018年4月 

 

 

カカオの聖地「ソコヌスコ Xoconuzco」へ行って来ました!

 

 

実は、2年前カカオ栽培の故郷であるメキシコを訪れた際、

タバスコ地方」(カカオ生産の80%以上を担う)

ソコヌスコ地方チアパス州)」(メソアメリカからの伝統を誇る)

この両方のカカオ農園を見たいと希望していたのですが、

ソコヌスコへだけはどうしても行くことができませんでした。

 

なぜかというと、「ソコヌスコにはマフィアがいる」とか、「お金を巻き上げられるぞ!」とか、ちょっと物騒な話をする人がいたからなのですが、

実際に行ってみると、現実のソコヌスコは全く違っていて、人々は素朴で穏やかで、少なくとも私が会ったカカオ関係者は、とても温かく魅力的な人々でした。

 

なんといっても、ソコヌスコはアステカの王家にカカオ豆を献上していた名誉ある生産地です。

アステカ王へ献上されたカカオ豆のうち、半分近く(年間9.6トン)がソコヌスコのものであったと言われています。

 

ですので、ソコヌスコは、チョコレート関係者としてはぜひとも行ってみたい憧れの地でもあるのです。

 

 

 

 

マヤ Maya地域の地図(メキシコ国立人類学博物館)

 

 

この地図はマヤの遺跡を表したものです。

そもそもマヤ文明というのはひとつの統一国家ではなく、メキシコ東部からグアテマラ、ベリーズ、ホンジュラスなどに点在した多くの小国家の集合体でした。

 

前回視察したタバスコ州のカカオ農園は、この地図の左上にある「コマルカルコ Comalcalco遺跡」の辺り、マヤ文明の西の端で、しかも「オルメカ Olmeca文明」の東の端が重なる面白い地域でした。

 

今回視察したソコヌスコのカカオ農園は、地図の左下の「イサパ Izapa遺跡」の辺りで、太平洋沿岸にあります。

 

今回イサパ遺跡に行って初めて知ったのですが、実はオルメカ人はかつて太平洋沿岸地域に住んでいて、北のメキシコ湾岸へ移動途中に一時期イサパ辺りに住んでいたらしいのです。

そこで、すでにカカオを栽培していたらしく、現在もイサパ遺跡の周辺には多くのカカオの木が見られます。

 

 

ところで、私がソコヌスコに言ってみたいと思った理由のひとつは、

7年前、サロン・デュ・ショコラ・パリの会場で1人のカカオ栽培者に会ったことにあります。

 

 

ダビッド・カシミロさん

 

 

ダビッドさんは、サロン・デュ・ショコラ・パリの会場で、メキシコ・ソコヌスコ地方のカカオ豆をPRされていると同時に、ソコヌスコが抱えている大きな社会問題を訴えておられました。

 

カカオの栽培には大変な手間と労力が必要です。

その上、良質のカカオの木は病害虫に弱く、モニリア病などが蔓延すれば大きな打撃を受けます。

そのため、ソコヌスコはカカオ豆の歴史的な産地でありながら、カカオの栽培を諦め、農園を焼き払って他の農作物に転換する農民が多かったのです。

 

そこで、ダビッドさんは、少しでも多くのカカオの苗を植樹し、伝統あるソコヌスコのカカオを守ろうという保護活動をされていたのです。

 

 

 

パリでダビッドさんに会って以来、「ソコヌスコは今、どうなっているのだろう?」という疑問が、長い間私の心の奥に残っていました。

 

 

 

ダビッドさんのカカオ農園パライソ農園

 

今回、実際にダビッドさんのカカオ農園に行ってみて気づいたことは、

ソコヌスコの伝統的なカカオ農園は、他の地域でよく見られるような「整備されたプランテーション型の農園」ではないということです。

また、計画的に様々な農作物が配置された「近代的なアグロフォレストリー農園」でもありません。

 

いうなれば、祖先から引き継いだ森のカカオの木を誠実に守っている農園。

そんな感じです。

古くて大きなカカオの木もたくさんあります。

 

下に落ちた大量のカカオの枯れ葉も、敢えて除去しません。

このカカオの枯葉を掘り起こすと、枯葉の下はフカフカの黒い堆肥に変わっていました。

この自然の堆肥が、古く大きなカカオの木の栄養となるのです。

 

オーガニックであり、プレミアであるソコヌスコのカカオ豆が、こんな風に栽培されいているのだということを初めて知りました。

 

 

 

 

そして、この農園の立役者はダビッドさんのお母上のデメトリアさんです。

 

かつて、この地方をモニリア病が蔓延し、多くのカカ農園が大打撃を受けてカカオ栽培を断念した時、デメトリアさんはひたすらカカオの木に向かって語りかけ、周囲の人からは頭がおかしくなったと言われてもそれを続けたそうです。

その結果、パライソ農園は存続し、ソコヌスコも復活しました。

 

植物は人の言葉に反応するという研究がありますが、

ソコヌスコのカカオの木にも、きっとデメトリアさんの言葉が通じていたと思います。

 

 

 

完全オーガニックのパライソ農園。

 

整備されたプランテーション方式ではないので、1ヘクタール当たりの収穫量は多くなく、経営は大変だと思いますが、その希少性を認めて下さるショコラティエさんに少しでも高値で買っていただいて、もっと生活が楽になるといいなぁと思います。

 

私も、これからずっとダビッドさん、デメトリアさんの応援団でいたいと思います。

そして、また必ずこの農園を訪れたいと心に誓っています。

 

 

 

 

 

ところで、今回のメキシコの旅では、他にも色々な珍しい食材と出会うことができました。

 

パタシュテ Pataste(テオブロマ・ビコロール)


 

カカオの仲間ですが、ポッドの外側が網目状になっていて、豆は平たくて白色です。

ローストすると、カカオ豆のような苦味はなく、ナッツ感の方が強いため、ローストしてそのまま食されたり、カカオドリンクに配合されたりするため、街中でも売られています。

 

今回、ソコヌスコのカカオ農園で初めて果肉を食べることができたのですが、マンゴーのようにネットリと甘く濃厚なお味でした。

 

 

 

アガベシロップ

 

このリュウゼツランの中心部に滲み出てきたシロップが「アガベシロップ」です。

(ヒョウタンのような道具でシロップを取り出します)

 

そして、このアガベシロップをアルコール発酵させたものが「プルケ」というお酒。

(アガベの球茎部から樹液を搾り取って発酵させたテキーラやメスカルとは異なるお酒です)

 

なぜ、私がプルケに注目したかというと、実は、私は昨年から古代メソアメリカの絵文書に興味を持っていて、日本にある複製本はほぼ目を通したのですが、その中に古代人がプルケを飲む場面が頻繁に出てくるのです。

 

 

 

ビンドボネンシス絵文書

 

たとえば、こんな風に兵士が手で捧げ持っているのが「プルケ」ですね。

(右下にリュウゼツランの絵も)

 

絵文書を開いて、こんな場面を目にする度に「プルケってどうやって作るのだろう?」「テキーラやメスカルとはどう違うのだろう?」と思っていたのですが、今回アガベシロップのお店に行って初めて分かりました。

なるほど、このあっさりとした甘味のシロップを軽く発酵させたものがプルケなのですね。

 

本当に、現地に行ってみないとわからないことだらけで、良い勉強になりました。

 

 

 

そして、メキシコにはまだここに書ききれないほど多くの魅力的な食材があります。

まさに、メキシコは食材の宝庫!

 

 


 

 

私の「メキシコ愛!」もますます深くなるばかりです。

 

 

今回の旅で、メキシコの「カカオを巡る旅」も、

・カカオ豆の大産地のタバスコ地方

・貴重な王家のカカオを伝承するソコヌスコ地方

・バニラ発祥の地ベラクルス地方

・モレ発祥の地プエブラ地方

・先住民の宝庫オアハカ地方

ほぼカカオに関する有名地域をコンプリートできたのではないかと思います。

 

 

 

もちろんこれからも何度でもメキシコを訪問する予定ですが、

今後は「メキシコ応援団!」として、日本の皆様への情報の発信も始めたいと思います。

 

 

メキシコの「カカオ文化」について知りたい人、

メキシコの「珍しい食文化」を知りたい人、

メキシコの「ユニークな食材」を知りたい人、

そして、メキシコに行ってみたい人、

ぜひお声がけ下さいね!

 

食材と歴史の宝庫、

日本でも、メキシコ現地でも素晴らしいメソアメリカをご案内しますよ!